2016年12月29日

2016年作品鑑賞まとめ 文芸作品編

今年の作品鑑賞まとめ、後編は「文芸作品編」です。今年新規で読んだ冊数は52冊、再読を含めても81冊と、昨年よりも読むペースがゆっくりになり、少なくなりました。しかし内容が濃かった。「ものをつくり届けるということ」に意識を向けた時期があって、全く別の作品同士を重ねて読むことがありました。映像作品と合わせて、「仕事観」に影響があった年かもしれません。
その中からいくつかご紹介。「私が今年楽しんだ作品」です。著者敬称略お許しください。


『葉桜の季節に君を想うということ』(歌野晶午)
前置きとは別の方向から。弟に貸してもらった作品です。薦められなければ絶対に読まなかったであろうジャンルでしたが、だからこそ終盤に驚きました。
任侠、探偵、性と様々なことに首を突っ込む主人公に、私は全く好感が持てなかったのです。やってることが最低で、そもそも犯罪で。
ですが頭の中で描いていたもの(私は読んでいるものを想像でアニメやドラマとして再生する癖があります)が、終盤に来て一気に描きかえられる、小説という媒体ならではの構成にはしてやられました。
人によるのでしょうが、文庫ラスト70ページの技が面白いです。……と言ってしまうのもネタバレかも。
弟曰く「絶対に最後からは読むな」。他にも歌野さんの本貸してもらいましたが、単純に話の好みでいえば『春から夏、やがて冬』が好きではあります。

『ランチ探偵』『ランチ探偵 容疑者のレシピ』(水生大海)
同じ作家さんの作品ばかり一気に集めて読む「祭り読み期」が度々訪れます。今年は水生さん作品がそれでした。(過去に香月日輪さん、村山早紀さん、坂木司さん、堀川アサコさんでやってます)
そのちょうどいいタイミングで『ランチ合コン探偵』が文庫化&続編刊行。嬉しや!
不動産会社勤務のOL、彼氏探し中の麗子さんと超ミステリーオタク(?)ゆいかさんが、お昼休み+時間有給の二時間で合コンをして相手の話す謎を解き明かす。メインとなるミステリーは人間の心理に重点が置かれているのかしら、私が内心抱えているあれやそれまで暴かれそうで楽しい怖さ。鋭い観察眼をもつ容赦のないゆいかさんと、ときに行き過ぎる彼女を抑えつつ最終的には同じ思いに辿り着くこともしばしばな麗子さんのコンビは絶妙です。
加えて毎回登場する料理の数々、唾液腺が刺激されるんですよね。どれも美味しそうで。『容疑者のレシピ』の肉が特に良い……肉食べたい……ビールと一緒に……。

『少女たちの羅針盤』(水生大海)
続けて祭りいきます。こちらはデビュー作、の私が読んだのは文庫版です。読んでいるものを脳内映像再生する私の癖を、素直に怒涛に衝撃的に発揮させられた作品でした。
私は「少女」が好きです。その時代にある儚さと図太さ、純粋さと残酷さにぞくぞくするのです。
本作では演劇に情熱をかけ、しかしボタンの掛け違いとすれ違いが重なって崩れていく少女たちの物語と、過去の罪を暴こうとする存在に脅かされる女優の物語が並行し交差します。この構成もすごく好き。次に彼女らを待ち受けるものは? 罪を犯したのは誰? そして「死んだ」のは? 人の心のどろどろとした部分が明らかになっていくごとに、息を呑んでは吐き、涙しました。
キャラクターも魅力的です。四人の演劇少女が織りなすバランスが美しく、それが崩れていく様に興奮しました。
続編である『かいぶつのまち』は、こちらを踏まえるとところどころで切ない気持ちにさせられます。

『ブランコ乗りのサン=テグジュペリ』(紅玉いづき)
先述の通り、私は少女が好きです。加えまして少女たちの痛みを伴う執着と成長にも心惹かれます。こちらの作品にはそんな少女の魅力を年初めから見せつけられました。
舞台は少女サーカス、主人公たちは曲芸子。演者であり人間の少女としての覚悟、愛、執着が咲き誇る花のように艶やかに描かれています。少女の世界の残酷さと舞台の世界の華やかな闇に震えました。
歪に真っ直ぐな少女たちの物語で、私が最も心惹かれたのは猛獣使い「カフカ」の章でしたが、おそらくここに学校という要素と個人への執着があったからだと思います。華やかさの裏を知ってなおも人形であり続けた「チャペック」が特に好きです。
花の命の彼女達に拍手喝采。Twitterがきっかけで出会った物語でした。良い出会いだった。
こういう出会いができるということは、感想は違えど、好みの傾向は似通っているんでしょうね。

『大奥の座敷童子』(堀川アサコ)
ところでこういう少女も好きですよ。時は黒船来航のさなか、弱小藩野笛藩から大奥の部屋子となった少女イチゴの目的は、座敷童子を探すこと。可憐かつ勇気と逞しさを見せるイチゴちゃん、肝の座り具合はやはり堀川さん作品の女の子ですね。
予言村シリーズの奈央ちゃんも『三人の大叔母と幽霊屋敷』で好奇心そのままに突っ走っていくスーパーヒロイン(ヒーローかも)の様を見せつけてくれてとても好きです。
話は戻って『大奥〜』は、私が今まで知識として知っていた大奥とは別の側面を見せてくれる作品でもあります。双六遊びの場面などはコミカルほのぼの大奥。ですが読むにつれその裏に不文律と怪談、そして女の情念執念をたっぷり感じられるので、それがまた良い。座敷童子という不思議と政治を裏で操ろうとする大奥の女の思惑のリアルさが同居しているあたりが、私が堀川さんの作品を好きな所以の一つです。

『人生はアイスクリーム』(石黒敦久)
私、おじ姪も好きなんですよ。この距離感が最高です。こちらの作品、翻訳家の宗太とその姪ジルの物語なのですが、ただ叔父と姪が仲良しなだけじゃないです。SFであり、私の生き方のサイクルみたいなものを言葉にしてくれた作品なのです。
読むこと、書くこと、食べることで生活の永久機関ができる、というところに私がすとんと落ちました。まさにそうやって生きているじゃないか、としみじみ感じる。読書は体験だけれど、読む人が解釈することによってその本がもつ元の意味は一旦「殺される」。けれども読書は孤独な行為で、人によって「殺し方」が違う。それがとても納得出来てしまったのでした。
SFと死生観、人生観が程よくミックスされて心地よい。続きを読むためにもう少しだけ生きてみる、の積み重ねで生きている。私が抱えていたものが言語化されたと思いました。変な言い方ですが、私が死にたいと思ったら手を伸ばす作品です。

『小説の神様』(相沢沙呼)
そして、必死に書いて生きる人がいる。自分の世界を愛し、大切にし、断絶を見たときに猛烈な痛みと苦しみに襲われながらも、言葉を物語にして誰かに手を伸ばそうとしている人たちがいる。
こちらの作品には「ものづくり」をして発表していく全ての人の心の叫びが込められているような気がします。
私は趣味で物書き遊びをしているだけの一般人ですが、雨のように降り注いでくる主人公一也の感情が、一端でも通じてしまって、だからこそ彼の作品を好きな人たちの言葉のうわべじゃない優しさに場所を気にせず号泣してしまいました。人の優しさに触れるたびに心は動いて、それをくれるのが小説で、誰かの言葉に誰かが救われる。それが染み入ってたまりませんでした。今年一番泣いたかな。
昨今の出版事情や本の流通事情については、この作品に触れる前に情報が色々と入ってきていました。これはお話の中だけのことじゃない、としみじみ思い胸が締め付けられました。
けれども幸せな未来を望み目指すからこそのこの作品だと思います。ああ作中作が読みたい。こちらもTwitterで出会えた作品です。

『桜風堂ものがたり』(村山早紀)
誰かが言葉にした思いを、届ける仕事があります。悲しい涙ばかりではなく、幸せな気持ちを人々に届けようとする、「本を巡る人々」がいます。こちらの作品はそういう書店員さんの物語。そして届けたいものや伝えたいもののために、日々を頑張る人々へのエールでもありました。
一冊の文庫新刊を見出しながらも長く働いた書店を去ることになった主人公一整君。その気持ちを受け継ぐように、しかしながら自分たちでも作品に幸せを見た書店員一同が本をより多くの人々に届けるために動く。そして一整君も新たな居場所(と書いて書店と読むのかな、彼の場合)に辿り着き……。という、まさに希望と情熱にあふれた「リアルな」書店員さんたちの物語です。
みんなが「この本を売る」という強い意志を持って行動している姿が、ちょうど作品を読み始めた頃になげやりになっていた私に、糖衣の薬のような効果をもたらしてくれました。
「命を生きること」、響きました。情熱を遠巻きに見ていた私の背中を叩いてくれました。
大きな絵に淡い絵の具を塗り重ねるような、多角的で層の厚い構成が好きです。彼らの続きを楽しみにしています。

『活版印刷三日月堂 星たちの栞』(ほしおさなえ)
こちらは思いを、人に寄り添い共に形にしてくれるお仕事。心に思いを抱えているけれど、それを上手に出すことが難しい人々の気持ちを、その人の物語を、活版印刷という影にして残してくれる。そんな川越の印刷所「三日月堂」を巡る作品です。
ごく普通の人の記憶や想いに優しい目で焦点を当て、印刷所の弓子さんと関わって語られる、自然に沁みていく物語。全編通して「喪う切なさ」が漂っていても、それでも悲しくはなりませんでした。『小説の神様』風に言えば「人間が書けている」のだろうし、『桜風堂ものがたり』の「涙は流れるかもしれない。けれど悲しい涙ではありません」がこの作品にもしっくりくる。なんだか今年触れたたくさんの物語の総括のようだなと思って、今年の鑑賞文の最後に持ってきました。登場する少女たちの心の機微も良かったのです。少女以外の登場人物ももちろんですよ。
肉体の死と解版された活版、残る思いと残り続けるインキと活字の影の対比がとても美しいのも良かった。『銀河鉄道の夜』を何度も読み返した一人としても感動しました。伏線が全体を通してパズルのように組み上がっていくので、ミステリーのような読み方もできて面白かったです。


今年は以上を選んでみました。好みが非常にわかりやすく出ただけに、絞るのが難しかったです。おじ姪なら『魔法使いのハーブティー』(有間カオル)も良かったしなあ。厳密には先生と弟子だけど。お仕事ものは流行っていたこともありましたが、積極的に読んでいました。
何のためにやって誰の役に立つのか、という自分の仕事への迷いを読書を通じていくらか切り拓くことができたと思いますし、また環境が目まぐるしく変わって疲れてしまい生きるのをさぼろうとしたのを読書によって動かせたこともあります。
今年の読書のテーマは「生きること」と「情熱」だったかもしれない……と、読書ノートを見返してみて思った次第です。
来年も、たくさんの素晴らしい作品に触れ、こうして「好き」を書き散らすことができればいいですね。そのためにもうちょっとだけ、生きるのを頑張ってみてもいいかなと思えるのです。読んで、書いて、それからちゃんと食べなくては。これって入力と出力と充電だなあ。なんて。
ここまでお付き合いいただきありがとうございました!
posted by 外都ユウマ at 21:31| Comment(0) | 作品鑑賞 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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