2018年03月23日

真昼の魔法使い

「あっちの方から」
君が指さしたのは、久しぶりの快晴。僕は顔を空に向け、指の先を見ようとした。
太陽の光が眩しい。
目を細めた隙に、こつり、と足に何かが当たった。
俯いて見れば、僕の座る木陰に、小さく輝くものがある。手を伸ばして触れようとすると、それはすうっと光を失い、見えなくなった。地面を撫でてみても、手にはそこらの砂粒の感覚しかなく、何があの輝きのもとであったのかわからない。
仕方なくもう一度顔を上げると、君は「ね?」と首を傾げて言った。
「つまらない魔法でしょう」
つい先程、僕が見せてくれるよう頼んだのだった。
君の『星を降らせる魔法』を。
誰も信じなくても、僕だけは君を信じようと思って。
けれどもこれでは、信じようにも確証がない。これが魔法だと、起きたことだとわかっているのは、結局君だけだ。
「せめて曇りや雨の日にやればいいのに」
僕が地面を撫でた手を払いながら呟くと、君の目が弓の形になった。
「僕の魔法は太陽の光が源だから」
慣れたような口調に、僕はもう誰かがこの言葉を口にしていたのだということを覚った。少しだけがっかりした。
「光がなくちゃ、僕は星を降らせられない。どんなに星が光っていても、その光だけを見ることが誰にもできない。落ちた星はすぐに他の石と同じようになってしまうから、見つけられない」
だから僕の魔法は誰も信じられないんだよ、と君は最初に説明してくれたことを繰り返した。
それでも僕なら、君の使う魔法を信じられると、星の光を捕まえられると思ったのに。
唇を噛むと、君は笑ったまま「いいんだ」と緩くかぶりを振った。
「見えないままでいい。これは僕だけの魔法だから」
「でも、信じてもらえないのって、嘘つきだって思われるのって、嫌じゃないの?すごいって思われたくないの?」
縋る僕に、君は弓の目を木の実のように丸くした。
「そんなこと」と言って切り、「少しは」と言い直す。
「考えたことがなかったわけじゃないけれど、知ったところでどうにもならないから」
ならないだろう、ではなく、はっきりとした「ならない」。
きっと本当に、どうにもならなかったのだろう。
僕はまた、君にとってのはじめての人になりそこねた。僕がしていることは、すでに誰かがしたことで、君はもう飽きてしまっているのだろう。
星なら降らせられるよ、と冗談みたいに言ったのは、たとえば「その町になら行ったことがある」というような、会話のきっかけにすぎなかったのだ。その程度にしか扱えないと、君はもう知っていて。「期待外れでごめんね」
それももう、何度も繰り返した終わりの言葉なのだろう。
「夜にできれば良かったのにね」
「そうだね」
「太陽電池みたいに光をためて」
「そうだね」
僕は誰かの言葉をなぞり、君は用意してある返事を並べる。
僕がなぞった轍は深くなり、君の心はまた少し削れたのかもしれなかった。
そしてとうとう、僕は「信じるよ、すごい魔法だ」という、用意していた台詞を言うことができなかった。
posted by 外都ユウマ at 20:26| Comment(0) | 創作文章 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする