2015年03月22日

『コンビニたそがれ堂』と私の思い出

私が『コンビニたそがれ堂』という作品に出会い、村山早紀さんという作家を知ったのは、2012年の夏のことでした。よく行く本屋さんの平台に、文庫本が三巻まで並べて置いてあったのを見つけ、どうにも気になって仕方なかったので手に取ったのが始まりです。
その頃、私は職業訓練の最中でした。2012年の2月末で、それまで派遣社員として勤めていた工場を辞め、しかしながら新しい仕事をしようとして受けた面接は落ちまくりました。そこで資格取得と生活費をつなぐために、補助金の支給がある職業訓練を受けていたのです。
人前に出ることが得意ではなく(卒論発表会で立って話すことができず、座って人の顔を見ない状態で自分の発表をさせてもらったくらいです)、面接や接客を伴う業務にはかなりの支障が出ることがわかっていましたから、それを克服するための訓練でもありました。自己紹介すらろくにできなかった私が自分を変えるのには、相応かそれ以上の努力が必要だったのです。
頑張れば結果はいつか出るかもしれないけれど、頑張り続けるのはつらい。一息でも吐けたらいいのに、と思っていたところでの、作品との出会いでした。
『コンビニたそがれ堂』を読んだ私は、もともとが感情のぶれが激しくよく泣く性質ではありましたが、やはり涙があふれて止まりませんでした。
文章の、お話の、優しいこと。それでいて描かれていることの多くは「お別れ」で、切ない。温かくて幸せな物語に惹かれて、二巻、三巻も揃えました。(四巻「空の童話」が出るのはもう少し先のことになります)『カフェかもめ亭』や『竜宮ホテル(三笠書房版)』は、資格試験を受けに行った先の本屋さんで買って読みました。
そうしてすっかり「風早の街」が好きになったのです。

『コンビニたそがれ堂』だけでも、好きな話を挙げればきりがない、というよりは、好きな話しかないといったところです。そんな作品たちの中から選ばれたものと書きおろしを収録した『コンビニたそがれ堂セレクション』が、先日、とても美しいハードカバーの本になりました。
あの夏の日から何度も読んだ物語を、ずっしりとした、鳥肌が立つほどきれいな本として、改めて読み返すことができました。

収録された物語の一つ、「人魚姫」。そのタイトルを見た私は2012年の夏のこと、さらに2013年4月以降のことを思い出しました。物語の主人公「真衣」のように、クエストをクリアしたい、レベルアップしたいと思っていた時期のことを。
「人魚姫」の主人公である真衣は、引きこもりの17歳。けれども外に出よう、少しずつリアルの世界に戻っていこうとする女の子です。内気で人と話すのにも緊張してしまう彼女に、私は自分を重ねて読んでいました。以前も、今も。彼女がたまに思う「シンデシマイタイ」という気持ちは、私の心にもよく現れるのです。彼女はそれを乗り越えるのですが。
小さな「クエスト」をクリアすることから始めてみようとした真衣のように、私もできそうなことから少しずつ取り組んでいって、レベルアップを目指そう。私にとっての「秋姫」は、この作品だ。そう思って訓練に臨み、資格を取得し、幾度目かの挑戦で面接を突破して職を得ました。
訓練以前と後では、私の印象はまるで違うものだと思います。外に向けて明るく笑えるようになりましたし、考え方も良い方向に転換しました。2013年の夏にお世話になった大学の先生に会う機会があったのですが、私の変貌ぶりに驚いてくださいました。下ばかり向いていて、まともに会話もできなかった学生が、元気な笑顔で訪ねていったのですから。

2012年夏に少し自分を変えることができた私は、しかし、2013年の春に、過労で倒れました。そのまま仕事も辞めることとなり、その年は体調を戻してから、色々な仕事を短期で転々としました。その合間に旅行をしたり、やはり本を読んだりして、なんとか回復しようとしていました。
そのときに読んだ本の多くも、やはり『コンビニたそがれ堂』をはじめとする村山先生の作品でした。心身ともに疲れてしまっていた私を、優しい言葉で包むだけでなく、次へ進ませてくれました。
2014年春から現在まで、私は久しぶりに同じ仕事を一年続けられました。自分で設定した「一か所で一年働き続けること」というクエストは、今月の頭に、達成することができました。
そして新たなクエスト「求められている仕事の基準を達成すること」に取り組んでいます。私は職場でもかなり落ちこぼれている上に、倒れて以来しょっちゅう体調を崩すようになったので、なかなか基準に追いつけないでいるのです。仕事だからやらなければならないのですけれどね。でなきゃ雇ってくれている会社の損になってしまいますから。
ただ嬉しいことに、休み時間が細かく設けられている仕事のおかげで、合間に本を読むことができます。それを許してもらっています。だから私は毎日文庫本と一緒に出社しています。
『コンビニたそがれ堂セレクション』はハードカバーでしたので、仕事から帰ってきてから読むようにしました。そうして一日の疲れを癒し、また、泣いたのです。あんまりきれいな本なので、表紙や挿絵を見るだけでも涙がこみ上げるほどでした。

私はすぐに泣く自分が好きではありません。幼い頃から「泣く」ということは非難されてきたからです。泣くことは悪いことだと、少し前まで思っていました。
けれども本を読んで泣くときは、物語に涙を流せる自分でよかったと思えるのです。感情移入して泣けるということが、そのときばかりは誇らしいのです。
あの夏の日から、私は何度も泣いています。けれどもそこに自己嫌悪があることが割合少ないように思うのは、それが読書によるものだからなのでしょう。泣くことを嫌悪するのではなく、泣くと同時に勇気を少しずつもらっているからなのだと思います。

初めて『コンビニたそがれ堂』に出会った本屋さんには、今も足繁く通っています。もしかしたら2012年夏の私にとっての、そこが「たそがれ堂」だったのかもしれません。
作品の感想を書いたことがきっかけで、ツイッターでたくさんの人と繋がることができ、今でも感想や情報など共有できるのが嬉しいです。
感想が先生に届くようになったことで、使う言葉も以前よりずっと棘が取れました。とげとげした言葉を、優しい人たちにふりまくわけにはいきませんから。
たくさんの方々とたくさんの作品へ。ありがとうございました。これからもどうぞ、よろしくお願いします。
posted by 外都ユウマ at 15:48| Comment(0) | 作品鑑賞 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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